茶道華道事業家として活動する元サッカー少年がいると聞き、茶道と華道に魅せられた理由、これから伝えていきたいことについてZoom越しに伺いました。 Interviewee Profile 岡本 友輝 茶道細川御流、華道細川未生流次期10代目家元。 サッカー部→リクルート→茶道華道家、という異色のキャリアを持つ。「人生最高の感動体験を茶道華道を通してお届け」をテーマに活動し、稽古とイベントを運営。過去にはニューヨークや京都本法寺・鴨川・国連会議での茶会経験がある。自身の稽古教室は東京・大阪・京都・オンラインにて運営。また、前職や茶道での経験から、マーケティング業務にも従事。 東京のヨガスタジオや祇園のサロンなど複数の事業者のマーケティング業務を担当。「価値はあるのにくすぶっている人・もの」が世の中にきちんと発信されていくことを目指している。 https://www.instagram.com/ukiukichachacha/ 自分のクリエイションで人を笑顔にしたいはじめに、茶道細川御流と華道細川未生流について教えてください 京都で170年続く、お茶とお花の家元です。私の曽祖母が9代目で、次期は10代目になります。一般的には、お茶とお花それぞれ別の家が行いますが、細川御流・細川未生流は1代目の時からお茶とお花とを同時に行ってきた、珍しい流派です。 小さい頃からひいおばあさまが家元であるという自覚はありましたか? 私の実家は奈良で、曽祖母は京都でお茶とお花の先生をしている、というくらいの感覚でした。私自身はサッカー選手を目指して打ち込んでいたこともあり、どちらかというとお茶やお花は自分とは関係のない世界のものだと思っていました。 自分とは関係のない世界という感覚から、家元を継ごうと決心されるまでには、どんな経緯があったのでしょうか? 昔から、自分で考えて作り出したもので人を笑顔にしたい、という気持ちが根底に強くあるんです。学生の頃から、様々な団体の代表を務めてきたのもそうですし、高校卒業時にディズニーランドでパレードが老若男女を楽しませているのを観て、「これを作る側になりたい」と衝撃を受けたのも大きな転機の一つです。大学に入学し、高校まで打ち込んでいたサッカーからも離れ、自分が何者であるかを見つめ直した時、一番身近にあった茶道と華道のお稽古を本格的に始めてみることにしたのがきっかけです。初めは茶室でお菓子を食べてボーッとするところから始まり、授業の合間にお稽古を重ね、お茶やお花って意外と面白いなと思っていたあるとき、ふとクラスメイトを誘ってお茶を点ててみたんです。そしたら、皆口々に「美味しい」「ほっこりした」と喜んでくれて、それが嬉しくて。あっディズニーパレードで感じたあの感覚、お茶やお花で再現できるんだ、と気づきました。 伝統文化をどう翻訳するか若い人たちに伝統文化を伝える難しさはありますか? それぞれの受け取り手に合わせた翻訳が難しいです。私が子供の頃そう感じていたように、多くの人にとって、伝統文化は自分とは関係ない遠い世界のもの。そう思う人たちに、いかに「実は私にも関係あるかも」と思ってもらうかどうかが大切です。相手の興味を分解して、達成したいことや求めていることを理解し、お茶やお花を通じてできることを伝えたり、相手の生活の中にどう溶け込ませるかを考えて提案したりしています。そのためには、私自身もライフスタイルや仕事を通じて、皆と同じ感覚を持ち続けることを心がけています。今は茶道と華道が6〜7割、事業企画やマーケティングなどの仕事を3〜4割手がけていますが、その中で日々感じる感覚も大切にしています。また、SNSは目下試行錯誤中ですがあまりお茶やお花ばかりにならないように気をつけたり、ヨガやDJイベントなど様々なイベントとコラボしたり、最初の接点や興味を持つきっかけを作るようにしています。 留学をされた経験もあると伺いました。海外での反応はいかがでしたか? 大学生の頃、ニューヨークに1年留学しました。何度か開催したお茶会には、現地の方、様々な国からの留学生が参加してくれました。でも、日本に興味はあっても日本文化の頃はよく知らない人ばかりだったので、日本では当たり前に共通認識として持っている美徳や価値観の説明を十分にしないままでは、キョトンとされてしまうということがありました。例えば、お茶を一杯飲むのになんでこんなに時間をかけるのかとか、なんで古いものや未完成のものが美しいとされているのかとか、そういった日本独特の感覚を上手く表現することに苦労しました。 「茶道はスパ」と発信されるようになったのも、その試行錯誤の結果でしょうか? 世界共通ではない、日本ならではの美的センスをどう伝えるかを考えていく中で、相手にとっては何に例えるのが分かりやすいだろうということを色々と考えてみました。その中の一つに、スパの例えがあります。ニューヨークの冬ってとても寒いんですよね。慣れない土地に来て、ホームステイ先の裏庭にあるホットスパで数ヶ月ぶりに熱いお湯に浸かったとき、身体中の力が抜けるというか、心の底からリラックスできるこの感じが、私がお茶を飲んだときの感覚に似ているんじゃないかなと気づいたんです。それからは、海外の人と話すときにもスパの例えを用いることで、「なるほどね」と共感してもらえることが多くなりました。 身近な例えは、海外の人だけでなく、なかなか伝統文化を体験する機会のない日本人にとっても必要です。特に日本では、伝統文化は型や作法があって難しそう、という先入観から敷居が高くなってしまっている場合が多いのですが、その先にあるリラックスできる感覚や時間を忘れる感覚を、もっと知ってもらえたらなと思います。 手の届くところから、幸せを広げたい茶道や華道を広める様々な取り組みをされていますが、コロナ禍で価値観の変化はありましたか? これまでにも、創り出す側でありたい、魅力の伝えるサポートをしたい、人の感動や喜びを作りたい、という一貫した思いで活動してきました。しかしコロナを受けて、「誰のために」をより考えるようになりました。まずは自分の周りから、そしてその周りへと、手の届くところから、幸せの輪を広げていきたいと思うようになったのは変化です。また、新たな幸せの定義についても考えるようになりました。幸せには、外的要因によるものと内的要因によるものの二種類があると思っています。前者は、高級ホテルに泊まったり、美味しいご飯を食べたりすること。もちろんこれらも幸せですが、後者は、同じご飯を食べたときにも、自分の気分を高め想像力を働かせることによって、幸せは無限大に広がります。 最後に、これからやっていきたいことを教えてください。 幸せの感度を高めるということを、茶道や華道を通じて広めたいと思っています。例えばお茶を飲むというひとつひとつの所作に集中する行為はマインドフルネスの考え方にもつながりますし、茶室を超えて様々な場所で体験できるイベントを仕掛けたいです。やはり直に触れる体験はオンラインには変えられないので、早くオフラインでのイベントが企画できるようになることを心待ちにしています。 Interviewer: Kaoru
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NC Interviews伝統文化の道を歩む人生を紐解くシリーズ |