現代の感性とトレンドを織り交ぜることで、着物の新たな時代を切り開く。着物初心者を次々と虜にしている着物屋さんを経営する、素敵な兄弟に出会いました。今回は、ファッション好きで和裁士、元営業マンという兄の巧大さんに、直感力で未来を切り開くヒントを伺いました。 Interviewee Profile 元山 巧大 元山家三人兄弟の長男。高校卒業後、香川にある和裁研究所で和裁の修行。2級和裁技能士取得後、祖父が設立し父が継いだ着物縫製会社兼和裁士訓練校である和裁学院を継ぐ為に故郷の長崎へ帰って間も無く、和裁学院は閉校。着物業界を退き、カーディーラーの営業マンとしてのキャリアをスタート。 そのことを知った弟の誠也から、「兄貴が和裁を辞めたら日本の和裁は、着物はどうなっていくのか。このまま終わってしまう。和裁の家系に生まれた者としてそんな日本になってしまっていいのか」と説得を受け続け3年が経ち、営業マンとして九州一位の実績を残しそれを機に覚悟を決め上京。弟の誠也と共に巧流-call-を設立。 http://call-kimono.com/call-kimono.com/ 着物の家に生まれてはじめに、元山家と着物の関わりについて教えてください 祖父の元山金良は、着物縫製会社兼和裁士訓練校である和裁学院を設立しました。九州に4校を設立し、全国和裁着装団体連合会13代会長として、和裁の発展を率いてきた存在でした。父の元山巧も、中学卒業後から東京で和裁の修行をし、1級和裁技能士を取得して和裁学院を継ぎました。 長男として、家業を継ぐ決意は子供の頃からあったのでしょうか? 子供の頃の写真を見返すと着物を着ている機会は多いですし、自宅の横に和裁学院の寮があったので、職人さん達との交流は多くありました。継ぎなさいと父から言われたことは無かったのですが、兄弟の中で誰かが継ぐだろう、そうだと知ったら長男の自分が継ぐことになるだろう、という漠然とした自覚はありました。高校後の進路を決めるタイミングで、父に「継ごうと思っているけどどう?」と聞いたら、「それは助かる」と。和裁の修行のため、香川県の和裁訓練学校に入学しました。 地元から離れての経験はどうでしたか? もともと社交的な性格なのですが、新たな地で友達もおらず、周りも物静かな方が多かったので、早く長崎に帰りたくて仕方がありませんでした。本来は卒業に必要な2級和裁技能士の資格を取るのに4年かかるのですが、それを2年で取得し、和裁学院を継ぐため長崎に戻りました。 未練はない、前を向いて進むだけその後和裁学院は閉校されたと伺いました 和裁士の仕事は、着物需要の減少の影響をダイレクトに受けます。私が長崎に帰ってほどなく、和裁学院の全校閉校が決まりました。父からも、着物の世界は後がないから戻ってくるなと言われ、人と関わるのが好きな性格を生かしてカーディーラーの営業の仕事に就きました。 香川で修行された後で、悔しさや戸惑いはありませんでしたか? 和裁士の資格は国家資格なので消えることは無い、という安心感はありましたし、他の世界も見てみたい、と前向きな気持ちでした。論理的に物事を考える弟とは対照的なのですが、直感的に物事を進めることが多いんです。でも結果として、楽しんで仕事をしていたら、九州一の営業成績を収めることができました。 美容師として先に上京していた弟さんの説得で東京に来られたんですよね (弟:誠也さん)兄弟を代表して和裁学院の家業を継ぐはずの兄が、その道を離れたと聞いたとき、着物業界の衰退にとても危機感を覚えたんです。着物を着る人がいないと嘆くのなら、まずは販売を変えねばと考えました。その話を兄にしたところ、ちょうど営業マンとしての結果も出していた頃でもあり「面白そう」とあまり悩まずに上京してきてくれたんです。私が上京してから美容師として育ててくれた銀座の美容室Londの後押しもあり、兄と二人三脚で起業の準備を始めることができました。 夢に向かって着実に巧流-call-の誕生秘話ですね!どのようなお客様が多いのでしょうか? (兄:巧大さん)清澄白河には古いものを新しい目線で発信するということを受け入れる土壌があり、まだオープンして丸2年が経ったばかりですが、日々新たなお客様との出会いに恵まれています。顧客層としては、30代が中心で9割男性という点が着物店としては珍しいと思います。ただ、ほとんどの方がオーダースーツを仕立てた経験があったり、私自身も和裁の職人だという話をするととても興味を持ってくださったりと、着物に興味を持っていただけるのは自然な流れなのだと思います。 巧流-call-の着物の着こなしは、初めて着る人でも1分で着られたり、おはしょりが無かったりと、オリジナルな工夫がされています。これらのアイデアはどこからくるのでしょうか? 昔から、かっこよく見せたい、人と違って見られたいという気持ちが強く、ファッションもその自己表現の一つでした。「粋っていこう」が私のモットーなのですが、一見無駄と感じることに価値を見出せるような人生の豊かさこそが、着物を着ようというモチベーションになると思うんです。ですから、着物を着たいと思った方が、着物は楽に着られて楽しいと思ってもらえるよう、和裁士の知識や経験を生かし、地元の和裁士と協力して商品作りをしています。 これからの目標を教えてください 6月に新宿御苑で新規オープンする、着物x Café&Barを成功させ、全国に店舗を増やしたいです。関東に2店舗、北海道、名古屋、福岡、大阪にも拡げたいと思っています。その後は、海外に進出したいです。ファッションとして日常に溶け込む着物ファッションを提案していきたいと思います。ゆくゆくは、和洋裁のファッション学校を建てるのが夢です。 Interviewer: Kaoru
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NC Interviews伝統文化の道を歩む人生を紐解くシリーズ |